パーソン・センタード・ケアとは

ここでは、基本的な考え方と鍵となる概念について少しご紹介しましょう.

 

認知症をもつ人を一人の“人”として尊重し,その人の視点に立って理解し,共にケアに取り組もうとする認知症ケアの考え方です.英国の故トム・キットウッド教授は、認知症と共に生きる人たちとの様々な関わりや膨大な観察を通して、その人を取り巻くコミュニケーションや人間関係が重大な影響を及ぼすことを指摘しました.彼は、一人の人として認められることを”パーソンフッド”という言葉で表現し、認知症ケアで最も重視されるべきこととし、そのためには、認知症になっても、身体的ニーズだけでなく、人としての心理的ニーズが満たされる必要があると述べました.そして、一人ひとりが唯一無二の存在であり、それぞれに異なる認知機能や身体の健康状態,性格傾向,人生歴,周囲の人間関係などを考慮し,本人とのコミュニケーションを大切にした支援こそが、認知症と共に生きる人たちのパーソンフッドを維持し、人生の質を高めると強調しました。彼のケアの考え方は、人との誠実なふれあいを重視するロジャース派の”パーソン・センタード”という言葉をつかって、”パーソン・センタード・ケア”と名付けられ、その著書や後継者たちの活動を通して、認知症と共によりよく生きることを支え合う取り組みとして、今も、世界的に大きな影響を与えています.

パーソンフッド

周囲の人々や社会とかかわりを持ち、一人の人として認められ、尊重されていると実感できること

 

心理的ニーズ

認知症をもつ人の心理的ニーズとして特に重要とされるのが,一人の人として無条件に尊重されることを中心として,共にあること,くつろぎ,自分らしさ,結びつき,たずさわりなどです.それらをキットウッドは花の絵で表しています.

くつろぎ(やすらぎ)のニーズ(Comfort)

愛着・結びつきのニーズ(Attachment)

自分が自分であることのニーズ(Identity)

たずさわることのニーズ(Occupation)

共にあることのニーズ(Inclusion)

 

パーソン・センタード・モデル

キットウッドは、人が認知症と共に歩む時,そのよい状態に影響を与えるのは、認知症の病気だけでなく、身体の健康状態、生活歴、性格傾向、社会心理といった5つの要素すべてが複雑に影響を及ぼし合っていると述べた.

脳の障がい(Neurological Impairment)

身体の健康状態(Physical Health)

生活歴(Life History)

性格傾向(Personalities)

社会心理(Social Psychology)

 

VIPSモデル

キットウッドの後継者であり、現在英国ウースター大学認知症学部教授であるドーン・ブルッカーにより理論化されたモデル.パーソン・センタード・ケアの実践には以下の4つの要素VIPSが不可欠であると述べました。VIPSは行動指針として、またVIPSフレームワークは組織のケア実践のふり返りの指標として、実践向上に活用することができます.

人々の価値を認めること(Valuing People)

個人の独自性が尊重すること(Individualized Life)

その人の視点に立つこと(Personal Perspectives)

相互に支え合う社会的環境を築くこと(Social Environment)

 

参考文献:

・水野裕:Dementia care Mappingの臨床的有用性と今後の課題,老精医,19巻6号,887-663,2008・水野裕著,『実践パーソン・センタード・ケア 認知症をもつ人たちの支援のために』 ワールドプランニング,2008
・ブラッドフォード大学認知症介護研究グループ,認知症介護研究・研修大府センター監修『DCM(認知症ケアマッピング)理念と実践』『DCMマニュアル』日本語版第1刷2011
・ドーン・ブルッカー著,水野裕監修,村田康子・鈴木みずえ・中村裕子・内田達二,訳『VIPSですすめるパーソン・センタード・ケア』クリエイツかもがわ,2010
・D. Brooker & I. Latham:Person-Centred Dementia Care-Making Services Better with the VIPS Framework-  (2nd edition).Jessica Kingsley Publisher.London(2016)