1.ライフストーリーワーク
R.Thompson(Dementia UK)によれば、ライフストーリーワークとは、「家族であれ支援者であれ、認知症と共に生きる人が、自分の人生における、その人にとって大切な過去の出来事や手掛かりとなるものを集め、ふり返り、その人の人生の物語を形作るのを支援する一つの活動」です。
人は皆、人生において様々な経験をしていますが、それらを通して私たちを唯一無二の個人として形成され、また、他者が私たちを理解しようとするときに役に立ちます。認知症をもつ人は、記憶や言語面の障がいにより、時として、その人のアイデンティティにかかわるような背景や出来事、大切な人などについて表現するのに支援が必要とされます。

ライフストーリーワークの取り組みは、認知症と共に生きる人が、自分の物語を分かち合い、自分が自分であること(アイデンティティ)の感覚を高め、維持するのに役立ちます。また、ライフストーリーワークは、本人とのよりよいコミュニケーションを助け、本人の視点やニーズ、望みを周囲が理解することに役立ち、パーソン・センタードなケアの提供を推進するものと言えるでしょう。

具体的には、例えば、本人の回想や語りを記録したライフストーリーブックや、写真を中心としたライフストーリーアルバムのほか、コラージュやメモリーボックス、また、最近では、DVDに動画や音声などを収録したものを制作したり、様々なアプリも利用できるようになっているようです。そのほか、ケアプランのために作成された簡単な生活歴プロフィールをもとに、本人や家族、友人から得られた情報を追加していくやり方などもあります。

ただし、誰もがライフストーリーワークに取り組むことを望むとは限りません。本人や家族と十分話し合い、同意を得て始めることが重要ですし、その人に合った形式や方法についても相談しながら進めることをお勧めします。


ライフストーリーブックの一例
2.創造的回想ワーク
回想法は、英国では高齢者を含む多世代によるコミュニティ作りの一環として活用され、独自の発展を遂げてきた。そのような背景のもとで、Age Exchange Centreを創立したP.Schweitzerらにより、認知症をもつ人と介護家族のための創造的回想ワークを用いたRemembering Yesterday, Caring Todayプログラムが開発され、英国を中心にEU圏で10年以上前から継続して取り組まれてきている。
F.GibsonやP.Schweitzerによれば、単に言語だけでなく、非言語的な回想の表現を引き出し分かち合うことの可能性が探求されている。写真や物品などにより多様な感覚刺激を回想を引き出す手掛かりとして用いるにとどまることなく、回想の表現方法としても、非言語的手法を様々開発し、例えば、描画、音楽、演劇、ダンス、料理など、創造的活動を通して他者と分かち合う機会を創り、また結果として残す工夫も、メモリーボックスはじめ、様々行われている。
ライフストーリーワーク同様、認知症をもつ本人にとって、アイデンティティや自尊心の維持に役立つと共に、楽しみながら、他者との交流を深め、また、支援者の本人への理解の助けとなると考えられている。

文献
・R.Thompson Dementia UK:”Guidance of using the Life story book template”より一部改変
・P.Schweitzer:”Remembering Yesterday,Caring Today”.NPO法人パーソン・センタード・ケアを考える会特別ワークショップ資料集(2019)